さんさか ネルドリップ珈琲と本と

「コツ」のはなし

この春ようやくスマホに替えて、多くの人がそうであるように本なんて読まなくなるか、
忘れてきた花束。 (ほぼ日ブックス)
少なからず本との距離感は遠くなるのでは心配していていたら、以前より自然と積極的に
本を読むようになった。
そもそもスマホを使いこなすような能力も興味もないのだから仕方がないけれど
Y!ニュースを少し見ていると、新聞記事とは違い、コピペを繰り返し即席で書かれたような原稿というか
テキストを読んでいると、コンビニの弁当を食べているかのように味気なく思えてくる。
温かい手料理が食べたくなるみたいに、ちゃんとした「文章」が読みたくなるのか
少しの時間でも積極的に本を開くようになった。
 
今年に入ってから、中村文則花村萬月さんの小説を、ニンニクたっぷりのこってり味みたいな
本を続けて読んでいて、心の闇ばかりみたいな感じなので読んでいるこちらも疲れてしまうのか
先日の「マチネの終わりに」で落ち着いたところで、糸井重里の「小さいことば」シリーズを
何冊か読んでいる。
 
言葉にするのが難しかったりあるいは恥ずかしかったり、そもそも文章にするほどのことでもないような機微を、身近で立体的なものに変換させるのは、やっぱりうまいなぁと思う。
糸井さんのことばのなかから「小さいことば」を選んで、1年に1冊ずつ出版されているのだけれど
タイトルも装画も毎年違うし、凝った仕様の製本だったり、文章によってフォントを使い分けていたり
こうして本として価値あるものに作り上げるのはおてのものという感じ。
短い文章ばかりなんだけど、自分のことを俯瞰して捉えることができるように思う。
日々の些細な選択などの意思決定や、軸となる価値観であったりするものの理由が
分かるような気がする。
分かりやすくいうなら、自分の一長一短をピタッと言い当てられるような文章がいくつも出てくる。
 
気に入ったもののひとつに「コツ」のはなしがあって、要約します。
〜〜〜まだ始めてもいないのに、「コツ」を知ろうと思っても意味がない。
   「コツ」なんてことばを忘れるくらい取り組んでいたら、
   「コツはなんですか?」と他人が訊いてくるようになったら、それが「コツ」。〜〜〜
 
珈琲を美味しく淹れる「コツ」のはなし。
珈琲の味を変える抽出の要素は、①湯温、②抽出時間、③粉の大きさ ということは
広く知られているし、自分も珈琲教室やらいろんなところで話したり書いたりしているので
実際にそのとおりですと断言してもいい。
ただし、ほかの条件が一定というか固定できるならという前提での話なわけです。
④蒸らし時間
⑤抽出量
⑥豆の量
⑦ミルの性能
⑧抽出方法の違い
⑨道具選びと相性
⑩焙煎度合い
⑪鮮度
⑫テクニック云々・・・とまあ、ざっと思いつくだけでもこのくらいは出てくる。
これ抽出だけの話なので、そもそも珈琲豆を焙煎するということ自体、多くの要素が絡み合うわけで
こうやって考えてみると、美味しい珈琲が飲めるということはなかなかの奇跡的なことで
こういうのを「小確幸」というのだろうと思う。
 
要するに近道はないのだけれど、あえて「コツ」を伝えるとするなら、
「蒸らしをたっぷりかつゆっくりと、それに愚直なまでに丁寧に淹れること。」となる。
でもやっぱり、相手の持っている技術とか経験によって伝えるべき「コツ」は違うんだろうなぁ。
あとできるかぎり、その日最初に飲む珈琲を自分で淹れること。
午前中のほうが味覚が鋭くて、朝イチに飲む珈琲の美味さにはかないません。