さんさか ネルドリップ珈琲と本と

四十の手習い

革靴を磨いたり、財布など革小物を手入れする。
シャツに自分でアイロンをかけるのもいい。
なんだかとても落ち着く。
単調な作業に集中していると知らぬ間に没頭し、日頃の煩わしい細かなことを忘れることができ
穏やかな気持ちで心地よい。
ランニングも心地よくて続けていたけれど、数年前の大会前に意気込んで走りすぎて以来
故障がちで走れないので、近頃は「ミシンがけ」がその心地よいに仲間入りしている。
 
そもそもミシンを使うようになったのは、ネルドリップの布フィルターを自分で縫って作るようになったこの3年ほど。
市販のフィルターをもとに自分の使いやすいように形を変えて、最初はミシンが得意な叔母に作ってもらっていた。
叔母の厚意に甘えているので、頻繁かつ細かな修正をお願いするのが心苦しくなり、ミシンを購入して自分で作るようにした。
 
店で珈琲を淹れるのは一人なので、それほどフィルターの数は必要ないと思われるかもしれないが
使える状態のものが常に30枚ほど用意してある。
おそらくこれは多いはず。
よそのお店の厨房側に入ったことはないので見た限りの推測だけど、一般的には使ったネルフィルターは
水洗いしてあとのお客に使うというのを一日の中で繰り返しているはず。
それで一日使い終えたフィルターをまとめて、営業終わりか翌日の営業前に煮沸するのが一般的というか合理的。
 
たくさんフィルターを用意しているにはもちろん理由がある。
珈琲を淹れるのに一度使った布フィルターは、そのたび水洗いのあと必ず煮沸してからでないと
次に使わないことにしているからだ。
水洗いだけではなく煮沸までするのは、珈琲の粉がついたフィルターはそれなりに汚れていて
なによりお湯でしか溶け出さない珈琲の成分を煮沸して落としてやらないと、そのあとの珈琲に当然影響する。
その日のはじめに淹れた珈琲と夕方の珈琲で味が違うなんてあってはならないし
それが淹れる側の都合で変わるようなら、解決できることだと思ってそうしている。
営業中、使ったものを何枚かまとめて煮沸するから、結構な枚数がなければまわらないのだ。
 
という理由でネルフィルターのストックも多めに必要となり、時間を見つけてはミシンの前に座っていると
難しい作業ではないので慣れてくるとけっこう楽しい。
するとまあ、何か作りたくなってきて、2年ほど前にNHKの「すてきにハンドメイド」で
もんぺパンツみたいなイージーパンツを紹介していたので、簡単にできるだろうと生地
選びまでしたのだが、思いのほか腰が重たくなって結局手を着けず。
 
それでようやく作ったのが、まさかのハンカチ。
途方もなく正方形の布をただまっすぐ縫うだけの白いハンカチ。
ハンカチは白と決めているものの、案外気に入ったものが売ってなくて
どうでもいいブランドのロゴが入っていたり、気に入ったものがあったと思いきや
アイリッシュリネン製で値の張るものだったりする。
困っていたら、元同僚が神戸の旧オリエンタルホテル跡にあるニューヨーク発のセレクトショップ
ビジュアルの仕事をしているので、探してもらうとコットンリネンの手頃なものがあった。
何枚か手配してもらって使ってきたのだけれど、破れてきたので買い足そうと思い連絡すると
「もう扱ってない」とか言われてまたまたハンカチ難民に。
 
ハンカチ問題が解決して晴れやかな上に、ミシンを使うのも心地よい。
こういう自分だけの時間とか、頭が空っぽになる感じって大事だと思う。
思い当たることがない人は、たとえばそう。
珈琲飲んで頭を空っぽにできるお店に行くっていうのがいいと思うよ、絶対。