さんさか ネルドリップ珈琲と本と

つながる

最近いろんなことがまあ都合よくつながったりした。
つい先週出たばかりのオオヤミノルさんの“美味しいコーヒーって何だ?”という本を
常連のお客様から「もう読んだから」と言って頂戴した。
これに「サードウェイブ」という耳慣れない言葉や、それが米国ポートランドの「スタンプタウンコーヒー」などをさした
新しい感覚の珈琲の動きを紹介することで始まる。
それに、去年友人に「面白い本があるよ」と教えてもらったのが“GREEN Neighborhood”
という米国ポートランドの街づくりについて書かれたもの。
これにも、マイクロロースター(小規模焙煎)などサードウェイブの動きも紹介されている。
また、アメリカと日本で二重生活をしていたお客様から、ニューヨークにもお店があるそのスタンプタウンコーヒー
のショップカードが、スタンプカードもかねていて、それがカッコよくていただいたのでとってある。
 
それで今回のミーツの珈琲特集が「サードウェイブ」。
自店が載った雑誌をのことを書くのははばかれるが
6月1日発売のミーツの取材があったのが、3週間ほど前。
珈琲特集のメイン企画は「サードウェーブ」と呼ばれる新しい珈琲文化みたいなこと。
分かりやすくその対極にあるうちの店なんかは、ほんの小さな掲載だと思っていたので
カラーページではないが、思いのほか大きく載ることになったのでうろたえるとともに
はからずも濃い珈琲の代表となっていることに、いささか戸惑っているしだいで。
 
■濃い=苦いではないし、ネルドリップ=濃いでもない。
今回のミーツで、デミタスみたいな濃い珈琲を説明するのに、珈琲を抽出過程で三つに切り取って淹れ分け
薄くなっていく様子を視覚と味覚で実験的に説明している。
不本意ではあるが画像がカラーじゃないのでほとんどわからないだろうが)
自分で言うのも何だが、あくまでも表面的で視覚的なパフォーマンスに過ぎない。
実際に、見た目に薄くなり、味もすっかり痩せていくのだが、ちょっとしたトリックみたいなもので
「濃くてきれいな珈琲だから」では言葉が足りないので、分かり易いように抽出の現象を見てもらっただけだ。
 
そもそも、濃く淹れようとは思っていない
抽出ということを分かりやすく言うと
「挽いた珈琲の粉と湯が触れると珈琲の成分が湯に移っていく」、というだけのシンプルな理屈。
この抽出を効率よく、できる限り成分を余すところなく、きれいに出し尽くすイメージを持っているので
濃く淹れようとは特別に意識していない。
余計な雑味みたいところは抽出せずに、最初のきれいなところだけを切り取ってやろうという具合。
だから、たまたま抽出した珈琲の現象として、はじめの方が濃いというだけのこと。
デミタスの場合、10分〜20分近くかけて低温抽出するというのを見聞きするのだが
高温で3分ほどで抽出しているので、時間と温度差による現象の違いを確認する作業はまだまだ取り組んでいかねば。
 
「やっぱりネルだと違うんですか?」ってたびたび聞かれる。
「そりゃ違うでしょ。布と紙ではフィルターとしての性能が別物だから全然違うでしょ!」と。
ネル布の張力だけで支えているということは、自由な形に膨らむので力が丸く全体に行きわたり
注ぐ湯の勢いが、珈琲の粉を動かしてしまう力に使われにくく、ほかの抽出より撹拌がおきにくい。
また、ネルフィルターを何枚で構成するとか、形をどうするとか、自分の好きなようにできることが重要で
それが蒸らしや抽出時間をコントロールしやすくなる利点がネルドリップの強みであるはず。
 
つまりネルドリップの魅力は「自由度」にあると思う。
道具を作ることもそうだし、その使い方にも制約がない。
初心者向けには市販品で専用のドリッパーとサーバーが一体型になったのがある。
枠つきのネルをサーバーに直接のせる人がいたり、ヤグラといってネルをセットした枠ごとのせる道具を使う方法も。
また、枠つきのネルをポットを持つ手のもう一方で操り、サーバーの上で窮屈そうに淹れているのもよく見かけるけど
サーバーだと口径が小さく、ネルを動かせる範囲が狭いので、私はミルクパンのような鍋に珈琲を落としている。
一長一短があることは言うに及ばないが、これだけいろんな方法で使えるネルドリップの「自由度」っていいと思う。
いずれにせよ、ネルの布自体が美味しくしてくれる魔法の布ではないということ。
 
こうやって誰かに説明して解ってもらうというのは案外難しいもので
珈琲について経験と偏見をもとに文章にまとめたものを一方的だがメニューに載せている。
(興味を持って熱心に読んでくれていたり、メモを取っている人をみると嬉しいもので。)
こういうことをしてみると、頭の中にあることをテキスト化してアウトプットするような、人に伝えることは案外面白いし
何より自分の確認作業にもなるので、ひけらかして恥をかかない程度に伝えていければいいと思う。
不定期だけど個人レッスンみたいな形で、レクチャーするようなこともやっている。
こちらから一方通行のテクニックだけの講習会ではなく、お互いの疑問を解消していくような
有意義な勉強会をと考えているので、興味のある方はなんなりと。