さんさか ネルドリップ珈琲と本と

SAPEURS

SAPEURS  - Gentlemen of Bacongo
フランス語で「オシャレで優雅な紳士たち」の頭文字をとって
“SAPEUR”(サプール)という。
アフリカ中部のコンゴ共和国
平均月収2万5千円。
エレガントなスーツを着こなした男たち街角に集まり、舗装されていな道をとにかく気取って歩く。
花道を歩く歌舞伎役者のように、彼らはゆっくりとポーズを決めながら気取って歩く。
するとサプール見物に集まった人たちからは歓声も上り、本当にスターのようだ。
男たちは富裕層や成金ではなく、タクシーやトラックの運転手、消防士や電気工事に携わる者だったりで
ほとんどが慎ましい庶民的な生活を送る人たちばかり。
今でいうコスプレでもないし、かつてのみゆき族ハマトラといったファッションのジャンルでもない。
 
サプールを知ったのは、昨年12月にNHKの地球イチバンという番組で、
「世界一 服にお金をかける男たち」と題して放送され、
エアギターで2度世界一になったことのある芸人が現地をリポート。
放送直後、この本は洋書でしかなく在庫もなかったので、あるサイトでは8万円で出品されていただけ。
半年待ってようやくこの6月に日本版として新たに出版された。
 
フランス統治時代、多くのコンゴの人々はフランス流のエレガンスに憧れ、フランス人のスタイルを真似ようとしたという。
独立の過程においてコンゴからフランスに渡った多くの移民が、「エレガンス信仰」を手みやげに舞い戻った。
植民地時代以前のエレガンス文化の復興ともいえるが、彼ら独自の色彩感覚や
異彩を放つ洗練されたエレガンスはどこか近未来的でもある。
原色の使い方はセオリーどおりとは言い難いが、とにかくアフリカの人たちには映えるのだ。
体格の違いもあるし日本人には真似しようもないスタイルだ。
 
悲しいことにコンゴでは1997年に内戦が勃発。
戦場と化した街角からエレガントな男たちは消えた。
あるベテランのサプールは戦火を逃れるため自宅を離れる際、大切な洋服や靴を地中に埋めた。
戻ることができたのは1年後。すべてがダメになっていた。
「戦争のせいで大切なものを失い、得たものは何ひとつない。」
「サプールは武器を持たず軍靴の音は鳴らしません。」
サプール文化は平和の象徴ともいえる。
ほかのサプールたちも話す。
「サプールは暗闇を照らす明かりのような存在」
「愛情があるなら大人はいい習慣やいい行動を若い人たちに見せてあげるべき。
 いい服はいい習慣を生みそれで人はまた成長できる。」
 
序文を寄せているポール・スミスが書いている。
〜サプールたちは衣服を購入するために長大な時間を労働に費やす必要がある。
 彼らが衣服にかける情熱は、今日の世界においては特殊なのかもしれない。
 身に着ける衣服のいかなるディテールにも細心の注意を払うサプールのスタイルは初期のダンディズムに通じる〜
NHKの番組でも、水道のない家で暮らすサプールは、出かける前の服選びに35℃もある部屋で3時間もかけていた。
彼らの本質は着こなしではなく、紳士のルールを身につけることにある。
独自の礼儀作法や行動規範、それに強い倫理観を共有する。
道徳観念と洗練された立ち居振る舞いこそサプールが芸術ともいわれる由だ。